8月9日(金)
テレビニュースは鹿児島の地震を報じている。オリンピックの話題に変わると卓球の張本選手を取り上げていた。泊まっている格安ホテルに簡単な朝食がついているというので、どれどれどんなものかと食べに行くと、全て美味しくて驚く。四人席しか空いていなかったので、日本人の若いカップルと相席をして食べる。カップル、向かいあうのかと思ったら横に並んだので、わたしと2人が向かい合うというフォーメーションになる。彼氏がルーロー飯を食べて「美味しい美味しい」と言い、彼女は頷く。
朝からはりきってお出かけをする。Uberでタクシーを呼んで街の風景を楽しみながら。華山1914という、やたらクリエイティブなアート空間に到着。ちいかわの展示がやっていて、ほぉーんと眺めていたら中国語の女子たちに「ちいかわちいかわ」と言われながら写真を撮られる。あきらかにおれも含めて撮影していた。全く似ても似つかないのだが。
お目当ての書店「青鳥書店」に到着。入店後すぐに店内のBGMのサニーデイ・サービス『コンビニのコーヒー』が耳に入ってくる。それだけでもう、嬉しい。本棚を眺めたり、座ってコーヒーを飲んだりして過ごす。誰にも気を遣わずに過ごす時間が嬉しい。一体本当の自分とはなんなのか。少し怖くなる。
周辺を少しウロウロして、ジュンク堂明曜店へ。日本のお店だらけの百貨店の中にあり、海外にいる気がしない。おまけにジュンク堂は日本の本しかない。日本語だらけ。目当ては御書印だったので、レジへ。御書印は毎回書店員さんとのちょっとしたやりとりとか、書いている様子を眺めるのが楽しいのだけど、奥で淡々と書かれて料金を徴収されて終わる。さみしい。
昼食難民になってあちこち巡る。百貨店のフードコートはどこも激混みで、ちょうど良いところが見つからず台北101へ。バカでかい建物に、贅沢に空間を使ったフロアに並ぶブランドショップ。合わない!それでも広いフードコートでようやく食事にありつける。それにしても台北のお店は全然お酒の取り扱いがなくて悲しい。食事と飲酒は別物という文化だそうで。食べたあとは超高速なエレベーターに乗って高いところに登った。地上何階だったかは忘れた。高いなあと思ったけどそれ以外の感想はあまりなし。エレベーターの列の途中に、テンション高く記念写真を撮ってくれる観光地ならではのゾーンがあり、そこは絶対に通らないといけないので萎縮していたが、係のお姉さんが「…☝️??」と無言で尋ねてきたので、「☝️」で返して撮られずに通過。一人で撮られる準備はできたのだが、気を遣われて通過できてしまった。
たくさん歩いて疲れたのでホテルへ避難。だらだらとスマホを眺めてしまい、21時過ぎてから近くの火鍋屋に行く。完全にハズレの店で意気消沈。明日にかける。
8月10日(土)
朝ごはんは士林駅のセブンイレブンのホットサンドにした。店内で焼いてくれるやつ。台北のセブンイレブンは色々あってすごい。タクシーで国立博物館に行くも、特に感動はない。ミュージアムショップで少し浮かれたTシャツを買う。妻ちゃんに買ったら着るかな、などと思うも離婚かあとなる。バスで士林駅へ戻って駅前でフライドチキンを頬張りながらコンビニのビールを飲む。酒を飲んでいる人間が全然いない。MRTで淡水へ。あいにくの天気なので、海はあまり綺麗に見えないけど、雰囲気が良い。
海をバックにタイマーで自撮りしてみようと思いつくも、10秒の感覚がずれすぎていてまぬけな表情が写される。撮り直しはしない。
何気なく見上げた先に、テラスと「書店」の文字を見つけて立ち入ってみる。
海と猫とビールと本棚が傷心のわたしを迎えてくれる。こんな嬉しい出会いはあるだろうか。本を2冊買って、カウンターで台北のクラフトビールをいただく。女性の店主さんがGoogle翻訳を使って話しかけてくれる。「この店をどうやって知りましたか」「見上げたら見つけました」「村上春樹を知っていますか」「もちろん知っているけど、ちゃんと読んでいません」「どんな本を読みますか」「日記が好きです」
もう一人の店員さんの就学前くらいの娘さんがずっと店内でディズニー塗り絵をしている。白い恋人をあげると「ありがとう」と言ってくれる。かわいい。隣にきて一緒に塗り絵をはじめる。おれには分からない言葉で何かをたくさん説明してくれる。
結局2時間も滞在してしまった。この店に出会えただけでも台北に来た甲斐があった。また必ずくると伝えて退店。もっと淡水を散策する予定だったのに、かなり狭い範囲だけの移動で後にする。MRTから見える海を動画で撮影する。おれはこの先、誰とどうして生きていくんだろう。
最終日の夜なので、夜市を思い切り散策するぞ!と意気込んでいたのだけど、雨、雨に次ぐ雨。雨粒の大群。
Twitterでやたらとみんながおすすめしてくれた、カリカリしてもちもちする球を買って腹をもたせる。確かに美味しい球だ。生きてきて一番美味しかった球だ。
結局ホテルへ戻って近くの夜市からUber eatsでたくさん注文して食べる。Uberなのに夜市なのでやたら安くて美味しくて驚く。嬉しい。明日は早起き。プーケットにいる妻から、お揃いのタイパンツを買ったとLINEが届いている。なんだおれも気にせずTシャツを買えばよかったよ。
8月11日(土)
早朝に出発して桃園空港へ。お土産を買い込む。あっという間に札幌についた気がする。駅のホーム内でサッポロのソラチエースを飲んで、帰ってきたことを実感する。職場に寄ってお土産を置いて少し身軽になってき帰宅。
8月12日(日)
昼に起床して台北のホテルでもらったパンを焼いて食べる。美味しくてびっくりする。賃貸も置けそうな壁面本棚を探してみたり、ぼーっとしたり。試験勉強をしなければいけないのに。なんだか何もできない。新しい生活はきっと悪くはないけど、それまでが寂しい。今夜は妻がタイから帰ってくる。数日離れてどんな気持ちだったかな。おれは、一人でいるイメージがしっかりできてしまった。妻を溺愛してしまったけど、本来こういう一人を楽しむ人間だったなあと、気ままに旅行をして少し思い出した。
妻は帰宅して旅行の話をたくさんしてくれる。いつもより少し王様感が強くて笑う。ちゃんとかわいい。お土産もたくさん買ってきてくれた。おれが喜びそうなものばかりだ。本当におれのことをよく分かってくれていた。それなのにおれは違った。もらったタイパンツを履いて寝る。かわいくて軽くて快適だ。
8月13日(火)
ただでさえ社会復帰が辛いのに、上司からは年上後輩のサポートをもっと手厚く頼むと別室で指示があった。がんばります。
家、どんな流れからか分からないけど、初めておれからも離婚しようと言った。決心していたことを口にした。明日も生きます。